日本製鉄は結局損したのか、得したのか?――USスチール2兆円買収、「黄金株」の重み(1/3 ページ)
日本製鉄によるUSスチール買収が事実上決着。しかし米政府の「黄金株」条件が重くのしかかる――巨額投資の行方と真価が試される統合劇の全貌とは。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら
米国の鉄鋼大手USスチールをめぐる日本製鉄の買収案件が、事実上承認された。6月14日に「国家安全保障協定」を米政府と締結したことで、約2兆円を投じてUSスチールの全株式を取得する取引が18日に行われる見込みだ。
「黄金株」付きの買収承認
米政府の承認は、6月14日の「国家安全保障協定」よりも「黄金株」の付与がまとまった時点で決着がついていたとみるべきだろう。
黄金株とは、米政府が経営上の重要事項に対して拒否権を持つ特殊な株式のことだ。
買収後は取締役の過半数を米国人とし、最高経営責任者(CEO)を米国人に限定することも条件として盛り込まれた。買収後もUSスチール本社は引き続きピッツバーグに置かれ、社名や本社所在地の変更は黄金株が拒否権を有するため事実上不可となる。
また、日本製鉄には、2028年までにUSスチールの電気炉を含む新設備へ110億ドルの追加投資が義務付けられる。
日本製鉄側としてはUSスチールは完全子会社のはずだが、過半数が日本人の取締役でなくなるため、取締役会の自由度が制限される可能性があり、意思決定がねじれるリスクもある。
本買収は一見、日本製鉄側の「大金星」にも見えたが、上記のように多くの制約が残る点が懸念される。
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