2025年に押さえておくべきIT戦略テーマとは? 「ITR注目トレンド2025」

AI活用が本格化する中で、IT戦略をいかにアップデートすべきか。ITRが発表した、2025年に注目すべき11の戦略テーマを見てみよう。

» 2024年12月06日 12時40分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 生成AIをはじめとするAIの活用が本格化しつつある。2025年に注目すべきIT関連トレンドは何か。ITコンサルティングと調査を手掛けるアイ・ティ・アール(以下、ITR)が発表した、2025年に企業が注目すべき11のIT戦略テーマ「ITR注目トレンド2025」を見てみよう。

AI活用時代 IT戦略に欠かせない11のテーマ

 ITRは、「経営戦略アップデート」「AI駆動型システム革新」「インフラ&セキュリティ高度化」の3つの観点から、11のIT戦略テーマをまとめている。同社の金谷敏尊氏(リサーチ統括ディレクター)は、「2025年には、生成AIによる業務効率化が進み、さらなるAI活用に向けた取り組みが進展する。企業は経営・組織戦略から、データ分析、システム開発、インフラおよびセキュリティに至る全ての領域でAIを前提とした変革に挑み、競争力を強化することが求められている」と説明する。

 3つの観点と11の戦略テーマは次の通りだ。

経営戦略アップデート

環境変化に即応するビジネス戦略立案

 これからの時代は、BANI(脆弱、不安、非線形、不可解)な経営環境を前提として、著しい環境変化に対処しなければならない。企業は、いかに適応力とレジリエンスを備えるかが重要となる。そのためには環境変化の状況を定常的に捕捉して評価するとともに、その結果を迅速にビジネス戦略に反映するための体制を万全にする必要がある。

AIコンバージェンスを誘発する組織能力の醸成

 AIが中核となって多様な技術が融合することで、新たな価値や需要が加速的に生み出されるAIコンバージェンスの時代が到来する。企業はセレンディピティ(幸福な偶然を引き寄せる力)が起こりやすい環境を整備し、コンバージェンスを誘発する組織能力を備えることが求められる。そのためには、DAO(分散型自律組織)の考え方を取り入れたクラスタ型組織への転換が有効だ。

「責任あるAI」の実践に向けたガバナンス体制の整備

 AIの普及拡大に伴い、その社会的、倫理的な課題にも関心が向けられることが想定される。また、世界各国の政府によるAI規制も本格化するとみられる。企業は、AIを安全かつ倫理的に利用するための枠組みを整備するとともに、その枠組みに沿ったAIシステムの開発・運用プロセスを実践することによって各種規制に対応するとともに、社会からの信頼を獲得するように努力しなければならない。

AI駆動型システム革新

NG-DevOpsによるアプリケーション内製

 AIの支援を受けた新世代のDevOps(NG-DevOps)を活用することで、ビジネスに貢献するアプリケーションが迅速に開発できるようになってきた。企業はこれらの新規テクノロジー/サービスを駆使して、マイクロサービスアーキテクチャにより、アプリケーション開発の構築/試行/運用/フィードバックのループを短サイクルで回し続けなければ、ビジネスで勝ち残れないことを理解すべきである。

AIを使ったデータ分析の「守りの自動化」から「攻めの自動化」への転換

 AI/機械学習を使ったデータ分析の自動化への取り組みは、生成AIの登場によって加速している。しかし、多くの企業では、作業効率の改善、スキル不足の補完といった現状の課題を個別に解決する「守りの自動化」にとどまっている。自動化の真の恩恵を得るためには、データパイプラインの構築、OI(オペレーショナルインテリジェンス)の実現といったデータ分析の処理プロセスを再構築し、より高度なデータ分析を可能にする「攻めの自動化」が求められる。

AIと接続した業務システムに求められる戦略的インテグレーション

 SaaS(Software as a Service)利用が拡大する業務システムにおいて、AI-Connected SaaS(細分化された業務機能単位でAIを組み込んだサービス)の活用が進むと考えられる。AI活用による業務のパフォーマンス向上には、複数のデータソース、業務システム、言語モデルの最適な流れを構築するデータオーケストレーションが重要な役割を果たす。そのためには、データの統合と一貫性の確保に向けた戦略的インテグレーションが求められ、iPaaS(Integration Platform as a Service)などのツールを積極的に活用すべきである。

AI活用を促進するデータ・フロー・ハブ基盤の強化

 経営・事業活動の目標を達成するために、企業はこれまで以上に迅速かつ多面的な意思決定によってビジネス課題を解決する必要がある。そのためには、エンタープライズシステムとして実装が進むAI技術の活用は避けて通れない。企業は、AIの情報源となるシステムとデータフローが常に変わっていくことを前提としつつ、その変化を吸収できるデータ・フロー・ハブ(Data Flow Hub)基盤の構築が必須となる。データ・フロー・ハブ基盤の利用拡大に伴い、データカタログとも言われるメタデータの整備を進めなければならない。

インフラ&セキュリティ高度化

顕在化するソフトウェアサプライチェーンリスクに対する管理手法の確立

 近年、ソフトウェア開発ではさまざまなツールやサービスが活用されているが、その開発プロセスにおける悪意のあるコードの挿入や、組み込まれているコンポーネントの脆弱性を悪用したサイバー攻撃が確認されている。企業は、ソフトウェアのサプライチェーン全体に目を向け、そのリスクを管理する必要がある。

AI活用によるセキュリティ運用の自動化と防御性能のレベルアップ

 サイバー攻撃の増加とそれに対応した政府機関の対策により、大企業ではSOC(セキュリティオペレーションセンター)の導入が一般的になりつつある。しかし、SOCを導入しただけでは防御性能が上がらない上に維持コストがかかるため、AI技術を用いた2次分析以降のフォレンジック機能のレベルアップと、SOAR(セキュリティ・オーケストレーション、自動化、レスポンス)によるエスカレーションフローの自動化が求められる。

エッジコンピューティングとオンデバイスAIによるビジネス革新

 LLM(大規模言語モデル)を使用した生成AIの業務活用が活発化している一方で、PCやスマートフォンなどにおいて搭載するNPU(ニューラル プロセッシングユニット)でSLM(小規模言語モデル)を使用して生成AIを処理する、オンデバイスAIへの注目が高まっている。オンデバイスAIの台頭によりNPUの開発・低価格化が加速することで、生成AIの適用ケースはエンドユーザーさらにはデバイスのみでの自動化にまで拡大する。企業は、オンデバイスAIによる生産現場や配送、顧客接点などの業務/ビジネスでの適用可能性を評価し、ビジネス戦略に反映させる必要がある。

ITインフラモダナイゼーションの推進

 企業はITインフラのモダナイズへの取り組みを本格化させており、2020年代後半には脱メインフレームを重点的に進める企業が増える。一方で、さまざまなビジネス分野でのAI活用が拡大するのに伴って、AIのワークロードを処理するためのAI専用インフラを構築してAIの競争力の向上が求められるようになる。ITインフラの運用では、生成AIがAIOps(IT運用のためのAI)の普及を後押しし、自動化から自律化に発展する契機になるだろう。

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