プロフェッショナルサービスを提供する中小企業が、自社の業務管理に役立つ機能を備えたクラウド型のERPに注目している。汎用向けとは何が異なるのだろうか。
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通常、ERPは複雑な要件を持つ大規模な組織で導入される。しかし現在、プロフェッショナルサービスを提供する中堅・中小企業が、自社の業務管理に役立つ機能を備えたクラウド型のERPに注目している。
ソフトウェア分析企業であるTechnology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコブリエビッチ氏(アナリスト)によると、これらの企業は、ERPの強力なリソース管理やプロジェクト管理の機能を求めているという。そのような機能は、製造業向けのERPにおける資材管理機能に類似したものだ。
「誰がどのくらい稼働しているのか、どのようなスキルや資格を保有しているのかといった情報を把握する必要がある。さらに、クライアントへの請求やプロジェクトの進捗(しんちょく)や稼働率の分析を行うために、優れたタイムシート機能を備えている点も重要だ」(ヤコブリエビッチ氏)
ヤコブリエビッチ氏によると、プロフェッショナルサービスに特化した主要なERPには、「Acumatica」や「Certinia」「NetSuite」「Deltek」「Sage Intacct」などがある。
建設業や流通業、製造業、小売業など向けにクラウド型のERPを提供しているAcumaticaは、2024年10月にプロフェッショナルサービス向けのエディションをリリースした。
Acumaticaでプロダクト管理を担当するジェレミー・ラーセン氏(バイスプレジデント)は「新しいエディションは当社の建設業向けのエディションをベースにしている。これは、プロフェッショナルサービス企業と建設企業のニーズが類似しているためだ」と述べた。
「プロフェッショナルな企業のサービスは、建設企業と同様に労働集約型のビジネスであり、開始と終了が存在するプロジェクトおよび業務で収益を生んでいる」(ラーセン氏)
ラーセン氏によると、Acumaticaがプロフェッショナルサービスエディションを提供するのは、建設コンサルタントやエンジニアリング企業、建築設計事務所などの建設業に関連する事業を営む企業だという。また、それらの企業の中で年商1000万ドルから2億5000万ドルの中堅・中小企業をサービスの対象としている。今後のバージョンでは、コンピュータおよびITサービス、医療サービス、法律事務所を対象とする予定だ。
ラーセン氏によると、本アプリケーションは、労働計画の最適化と追跡を中心にプロフェッショナルサービス企業のニーズを満たすよう設計されており、これが収益性の重要な要因となっている。
「リソース計画ツールとスケジューリングツールを持つことは必須だ。これは建設業も同じだ」(ラーセン氏)
ラーセン氏によると、Acumaticaは独自のプロジェクト管理ツールを開発せず、独立系ソフトウェアベンダーであるProjectManagerと提携して、プロジェクト管理ツールをプロフェッショナルサービスエディションに組み込んだとのことだ。
ラーセン氏は「その他の重要な機能として、タイムトラッキングやマイルストーン請求、プロジェクトの問題点を把握できるプロジェクトヘルスダッシュボードが含まれる」と述べた。
Certinia(旧FinancialForce)は、「Salesforce」のプラットフォームにアプリケーションを構築している。同社で顧客体験およびオペレーションを担当するデブ・アシュトン氏(シニアバイスプレジデント)は「当社のプロフェッショナルサービス向けのクラウド型ERPは、大規模なプロフェッショナルサービス部門を持つコンサルティング企業やソフトウェア技術企業、ハードウェア技術企業を対象としている」と述べた。
Certiniaのプロフェッショナルサービスクラウド「PS Cloud」は、中堅・中小企業向けの単独アプリケーションとして設計されている。アシュトン氏によると、本アプリケーションは、OracleやSAP、Workdayなどの他のベンダーの汎用型ERPシステムを併用している企業でもよく利用されているという。
CertiniaのPS Cloudは、リソース管理に関する高度な機能を備えている。アシュトン氏によると、最近では、スタッフ配置やスキル管理、スキルの階層構造に関する機能も強化されたという。
「私たちは『インテリジェントスタッフ配置』機能も開発した。これは予測型AIを活用して、スタッフ配置やリソースのニーズに関する提案をするものだ。高度なリソース管理機能を提供するという理念に基づいており、顧客が自社の規模に応じて、適切なタイミングおよび適切な地域で、適切なスキルを持つ適切な人材を見つけられるようにする」(アシュトン氏)
Acumaticaのプロフェッショナルサービスエディションは優れた機能性を備えており、NetSuiteや「Microsoft Dynamics 365」「Infor Cloud Suite」を含む競合製品と比較しても遜色はない。しかし、アドバイザリー企業であるMoor Insights & Strategyのロバート・クレイマー氏(アナリスト)によると、市場が限定される可能性があるという。
「Acumaticaには、他の競合製品には搭載されていない追加機能が幾つか存在する。これは市場が切迫していないためだ。このERPはプロフェッショナルサービス企業に特化した非常にニッチなものだが、それに見合う市場があるかどうかはまだ分からない」(クレイマー氏)
プロフェッショナルサービスに特化したベンダーの強みは、その業界に適した独自の機能にある。一方、クレイマー氏によると、中堅・中小企業をターゲットにする場合は、既存のERPがもたらす課題を克服する必要もあるという。
「他のツールで必要な機能がすでにカバーされている場合、企業がサービスを乗り換える可能性は低いだろう。なぜならば、中堅・中小企業は必要のない限りERPに多額の投資をしないからだ」(クレイマー氏)
クレイマー氏は「Acumaticaは業界のリーダーとして優位性を持っており、消費量ベースの価格モデルは、ユーザーライセンスベースの価格モデルよりもプロフェッショナルサービスエディションを魅力的にする可能性がある」と述べた。
「しかし、依然として多くの企業が古いシステムを使用している。問題は、これらの企業が新しいタイプのシステムに移行することを選択するのか、それともアップグレードが容易で、プロジェクト管理のような一部の業務を他のベンダーにアウトソースする方法を選択するのかという点だ」(クレイマー氏)
クレイマー氏は「全体として、プロフェッショナルサービス向けのERPを提供するベンダーの数が増えていることは、顧客にとってメリットだ」と述べた。
「プロフェッショナルサービスの要件に取り組むベンダーが幾つか存在する余地があり、顧客に選択肢が増えるのは良いことである」(クレイマー氏)
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