AIエージェントとRPAは何が違うの? UiPathに聞いてみたIT部門が今知っておきたい「AIエージェント」

AIエージェント時代に業務の進め方やITシステムの在り方はどう変わるのか。AIエージェントが当然のように使われる“ちょっと先の未来”に備えてIT部門が知っておくべきことをUiPathに聞いた。(執筆:HubWorks,取材:田中広美)

» 2025年05月26日 08時00分 公開
[HubWorks, 田中広美ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 「AIエージェント活用元年」とも言われる2025年。自律的に判断して複数の作業から構成される業務を実行するAIエージェントを活用できるかどうかは、ビジネスの成長スピードを大いに左右しそうだ。

 また、これまでともすれば「膨大な繰り返し業務を大量に抱えている大企業が取り組むもの」という捉え方もあった業務自動化は、AIエージェントの登場でどう変わるのか。

 「われわれは既存の技術とともにAIエージェントを活用して、エンドツーエンドで業務プロセスを自動化しようと考えている」と語るのは、RPAをはじめとする業務自動化のツールやプラットフォームを提供するUiPathの夏目 健氏(プロダクトマーケティング部 部長)だ。

 AIエージェントが今の段階でどの程度自律性を持ち、どの業務をどの程度確実にこなせるのか疑問に思っている読者もいるだろう。

 そこで本稿では、RPAをはじめとする業務自動化をけん引するUiPathが考えるAIエージェントの姿を明らかにしつつ、AIエージェントの導入に当たってIT部門に求められる役割を整理する。

AIエージェントはRPAと何が違う?

 まずは、AIエージェントがどのような技術なのか。特にRPAとの違いを中心に整理する。

 はじめに夏目氏はAIエージェントを取り巻く環境について次のように説明した。

 「AIエージェントについて静観の姿勢を取る企業は多い。それらの企業は『技術が成熟した段階で導入の検討を開始しよう』と考えている。しかし、実際にはAIエージェントを導入する動きは急速に拡大している」

 夏目氏によると、2023年の時点では「AIエージェント」という言葉自体ほとんど知られていなかったが、2024年におけるAIエージェント関連の投資額は約4億ドルに膨れ上がったという。

 一方で、AIエージェントの定義には曖昧(あいまい)なところもある。人間が作業の流れを細かく指示することで一連の作業をこなすワークフロー型のAIエージェントと、人間による細かな指示が不要で、自ら業務プロセスを考えて実行する自律型のAIエージェントがあるが、どちらもただ「AIエージェント」と呼ばれることが多い。

 「後者のAIエージェントはより高い汎用(はんよう)性を備えており、さまざまな業務で利用できる。ただし、今の段階で業務に『使える』AIエージェントと考えると、ワークフロー型の方が信頼性が高いのが実情だ」

 「前述したワークフロー型のチャットアシスタント形式のAIエージェントは、個人の生産性を向上させる『アシスタント・コンシェルジュ』のような存在だ。一方、われわれが思い描くAIエージェントは、『業務担当者』のような存在だ。つまり個人の生産性向上だけでなく、組織の生産性向上に役立つものだ」(夏目氏)

 AIエージェントとは何かといった時に「RPAとの違い」が言及されることも多い。UiPathはロボット(RPA)とAIエージェントとの違いを次のように説明する。

図1 UiPathが定義するロボット(RPA)とAIエージェントとの違い(出典:UiPathの提供資料) 図1 UiPathが定義するロボット(RPA)とAIエージェントとの違い(出典:UiPathの提供資料)

 夏目氏によると、AIエージェントが発達してもRPAが不要になるわけではないという。AIエージェントとRPAのそれぞれに得意分野があるからだ。

 RPAは高い信頼性が要求される繰り返し作業を得意としているのに対して、AIエージェントは柔軟な対応が可能で臨機応変なタスクに向くが、信頼性には一定の課題がある。

 「高い信頼性や効率を必要とする繰り返し作業にはRPAが向いている。一方、顧客ごとに異なる内容の電子メールを作成したいといった、臨機応変で柔軟な対応が求められる作業にはAIエージェントが向いているが、ハルシネーションの懸念がある。AIエージェントとRPAは互いに補完し合う関係にあると考えている」

UiPathが提唱する「エージェンティックオートメーション」とは

 このようにAIエージェントには自律性という魅力がある一方で、信頼性の低さという短所もある。ビジネスで利用するに際して信頼性の低さは気になるが、これについてUiPathは次の4点で企業が安心して利用できるようにするという。

1. アクションの具体的な定義と制限

  • 細かいアクティビティレベルでの権限設定
  • システム内で何ができるか、何をしてはいけないかを明確に定義
  • 具体的な制限を設けることで、予期せぬ動作を防止

2. 既存の自動化テクノロジーの活用

  • RPAやAIで開発された信頼性の高い自動化プロセスをエージェントに継承
  • ミッションクリティカルなシステムでの実績のあるアクションを活用

3. 人間によるレビューとチェック

  • エージェントの実行アクションを人間が確認
  • 例外対応や承認プロセスへの人間の介入
  • センシティブな内容に対するガードレールの設置

4. 透明性と品質改善の仕組み

  • エージェントの動きを可視化
  • プロセスマイニングによる実行状況の監視
  • 標準プロセスからの逸脱を検出
  • 継続的な品質評価と改善メカニズムの構築

 「エージェンティックオートメーションを実現するためには、AIエージェントの信頼性をいかに高めるかが重要だ。正確な作業を得意とするロボットに、信頼性の高いAIエージェントを組み合わせたときに初めて、AIエージェントが企業で活用されるようになるだろう」(夏目氏)

エージェンティックオートメーションのユースケース

 夏目氏は例として、購買業務における人間とAIエージェント、ロボットの関わりについて解説した。

図2 エンドツーエンドの自動化を実現するためにRPAとAIエージェント、人間を組み合わせる(出典:UiPathの提供資料) 図2 エンドツーエンドの自動化を実現するためにRPAとAIエージェント、人間を組み合わせる(出典:UiPathの提供資料)

 図2において、RPAはデータの取得や書類の作成、情報の送信のような定型業務を担当している。AIエージェントは情報の照合や不一致があった際のフォロー、各種の調整といった臨機応変な対応を担う。

 人間は確認や承認、AIエージェントが対応できなかった業務への対応を担当する。

 「昨今のビジネス環境では、特定の業務を遂行するためにさまざまなツールを使う必要がある。UiPathのAIエージェントは他社のツールやAIとも連携しながらオーケストレーション(複数のシステムやアプリケーション、サービスと調整してプロセスを実行すること)を実現する」

AIエージェントにおけるUiPathの強みとは?

 各社が次々にAIエージェント関連の機能やサービスを提供する中で、UiPathの強みは何だろうか。夏目氏は、エージェンティックオートメーションの実現に当たって、UiPathがこれまで培ってきた技術が強みになると語る。

エージェンティックオートメーションにおける4つの基礎技術

 エージェンティックオートメーションの根底にあるのは、次の4つの技術だ。

図3 エージェンティックオートメーションの4つの技術(出典:UiPathの提供資料) 図3 エージェンティックオートメーションの4つの技術(出典:UiPathの提供資料)

 「4つの技術の中でUiPath製品として特に重要視しているのは「ツールの活用」と「マルチエージェントの協調」だ。AIエージェントをビジネスに活用するためにはAPIやGUIなどを駆使することが重要だ。AIエージェントによる業務プロセスの立案および遂行のために、企業の垣根を超えてさまざまなアプリケーションにアクセスできる環境を構築する必要がある」

 エージェンティックオートメーションには、UiPathがこれまで培ってきた次のような自動化技術が使われているという。

  • API以外にもGUIやAIを組み合わせたエージェントアクションを実現
  • 定義付けや制限により想定しないアクションを防止
  • AIエージェントとロボットの特性を活かし、業務プロセスをエンドツーエンドで自動化・多様なアプリやAIモデル、エージェントエコシステムを活用し、エージェンティックワークフローを構築

 AIエージェント単独で対応できる業務には限りがある。より幅広い業務で役立てるためには、既存の技術と組み合わせることでAIエージェントの遂行する作業の信頼性を高める必要がある。

エージェンティックオートメーションの実現に向けて

 エージェンティックオートメーション実現のために具体的に何が必要か。夏目氏は次の4点を強調した。

  1. 実装手段: AIエージェントが実行可能な手段に不足がないか。それらの手段を連携し、実行できるか
  2. ガードレール: 個人情報や機密情報の取り扱い、ハルシネーションやセンシティブな内容に対するガードレールを構築できている
  3. 透明性: AIエージェントの実装状況の理解、利用状況のモニタリングにより、運用リスクを軽減できているか
  4. 品質: AIエージェント自体の品質、自動化業務の状況を把握し、継続的な改善により業務品質を高める取り組みを実践できているか

 エージェントオートメーションを実現するために、UiPathは次のような製品をリリースしている。

図4 エージェンティックオートメーションを実現する製品(出典:UiPathの提供資料) 図4 エージェンティックオートメーションを実現する製品(出典:UiPathの提供資料)

AIエージェント時代のITシステムの在り方

 AIエージェントを活用するためにIT部門に求められる役割は何か。

 「AIエージェントは、アプリケーションよりもシステムに近い。つまり導入時には、AIエージェント単体ではなく、AIエージェントが影響を与える周辺領域についても考える必要がある。そのために大切なのは『触ってみる』『考えてみる』『調べてみる』ことだ。一口にAIエージェントといっても、それぞれ特徴や癖を持っている。実際に触ってみることで、新しい視点を得られるだろう」

 AIエージェントを実際に触ってみることで、ITシステムについて次のような考えが生まれるという。

・AIエージェントがアクセスしやすいシステムはどのようなものか、反対にアクセスしにくいシステムはどのようなものか

・AIエージェントが扱いやすいデータはどのようななものか、反対に扱いにくいデータはどのようなものか

 夏目氏は「AIエージェントとそれが影響を与える周辺領域を最適化することこそ、これからのIT部門に求められる役割だ」と語った。

 これまでITシステムの在り方は、ビジネス側のニーズに応えるものであるかどうかや、可用性や信頼性の高さ、コストなどによって規定されてきたが、今後は新しく「AIエージェントが扱いやすいものであるかどうか」という要素が加わることになるのかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

あなたにおすすめの記事PR