「RAG」の現在地は? ガートナーが2024年版ハイプ・サイクルを発表
ガートナーが発表した2024年版のハイプ・サイクルによると、日本市場では、RAG(検索拡張生成)をはじめとする5つの項目が注目を集めているという。生成AIやRAGの現在地とは。
ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2024年8月7日、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」を発表した。同ハイプ・サイクルでは、企業にとって重要な、未来志向型だと同社が捉えているテクノロジーやトレンドとして40のキーワードを取り上げた。
「RAG」の現在地は? 今注目すべき5項目を紹介
ガートナーのハイプ・サイクルは、イノベーションが「過度な期待」のピーク期(もてはやされる時期)を経て幻滅期を迎え、最終的に市場や分野でその重要性や役割が理解されるという段階で「進化」する共通のパターンを描いたものだ。
イノベーションの成熟度と採用度を明らかにした上で、それらがビジネスの問題解決や新たな機会の活用にどのように関連するかを図示している。対象となるイノベーションには特定のテクノロジーの他、方法論と戦略、運用と利用のモデル、管理技法と標準、コンピテンシー、機能などの広義なトレンドや概念も含まれる。
2024年版のハイプ・サイクルで、企業が注目すべきテクノロジーやイノベーションとして追加されたのは、次の5項目だ。
- RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)
- マシン・カスタマー
- ヒューマノイド
- エンボディドAI
- LBM(Large Behavior Model:大規模振る舞いモデル)
ガートナーの鈴木雅喜氏(バイス プレジデント アナリスト)は、「2024年現在、生成AIが『過度な期待』のピーク期にある。AI関連技術は今後さまざまな用途と業種に広がり、利用者視点で価値を生み出す『People Centric』(人中心)という考え方の下で複数の技術を複合化させていくトレンドが継続するだろう」と解説する。
2024年版に追加したテクノロジーの中では、検索拡張生成(RAG)が「過度な期待」のピーク期に位置付けられている。RAGは大規模言語モデル(LLM)と検索(サーチ)のハイブリッドアプローチによって、企業が自社データを生成AIの出力に組み込むことができる技術だ。RAGによって、業務に特化した生成AIの利用が期待されている。
同社の亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)はRAGについて次のように分析する。「多くの企業やエンジニアがRAGにチャレンジする一方で、RAGの精度向上に苦心しているという声が多く寄せられている。生成AIを推進するリーダーは、ステークホルダーとの間で期待値をうまくコントロールすることが重要になる。つまり、『要約』など、『無いよりまし』の領域で割り切って使うことで生産性向上を図るなどの工夫をすることが、生成AIやRAGの成功の鍵になる」
生成AIやAIの進化に伴う市場の変化について、同氏は「現在、市場はテキストベースのLLMの競争から、マルチモーダルにより複雑なタスクをこなすAIエージェントの競争への変革期にある。現在の生成AIのフェーズは、初期のインターネットと同様であると捉え、これからも主要ベンダーや市場の変化、さらに自社ビジネスに与えるインパクトに注目し、適宜戦略と実行をアップデートする必要がある」と指摘する。
2024年版に追加されたテクノロジーの中で、RAGの他に注目すべき項目として挙がっているのがヒューマノイドだ。
亦賀氏は次のように解説する。「2024年以降、海外の主要な自動車企業はヒューマノイドを工場に投入することで、製造業に産業革命的インパクトをもたらそうとしている。現在、世界の自動車業界は『デジタルを前提とした新たなモビリティー産業』への転換を進めている。自動車業界を先行事例とし、全ての日本企業は、産業革命のトレンドへの対応が急務となる。単なる合理化ではなく、People Centricの原理原則の下、働く人の労働負荷の軽減や、人間力を高めるためのケイパビリティーやマインドセットを獲得すべく、人材に投資しながら従業員とAIやヒューマノイドとの共生を図ることが重要なテーマになる」
デジタルリーダーは、ハイプ・サイクルをどのようにIT投資に生かすべきか。
鈴木氏は「今回のハイプ・サイクルで取り上げたテクノロジー、概念の中から、自社に利益をもたらす可能性のあるものを見極め、その現在の成熟度と十分に成熟するまでの期間を理解し、投資すべきテクノロジーを判断することが重要になる。特にハイプ・サイクルの頂点の近くにあるものについては、期待値と現実のギャップが大きい点に注意する必要がある。テクノロジーが未成熟な段階でリスクを取って投資し、先行者利益を享受することをまずは考慮すべきだ。しかし、リスクを回避して、早期に導入した他社の状況を見つつ、テクノロジーの成熟が進んでから採用することも得策となり得る」と提言した。
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