ServiceNowはCRM領域でどう戦う? 日本支社社長発言を紹介
圧倒的強者が存在するCRM領域でServiceNowはどう戦おうとしているのか。AIエージェントを搭載する同社プラットフォームの最新版「YOKOHAMA」のポイントと併せて紹介する。
AIエージェント活用元年とも言われる2025年。業務プロセスを自律的に実行するAIエージェントが各社から次々と登場している。
ServiceNowも、2025年3月にリリースした同社プラットフォーム「Now Platform」の最新版「YOKOHAMA」でAIエージェント機能の搭載をうたう。
ServiceNowの日本法人であるServiceNow Japanは、2025年4月2日に開催した同社の2025年における重点的な取り組みと「ServiceNow Platform」の最新版「Yokohama」リリースに関する記者説明会で、近年力を入れるCRM領域での取り組みと、AIプラットフォーマーとしての強みを語った。
「Salesforce」という圧倒的な強者が存在するCRM領域で同社はどのように戦うのか。
「人が担う業務の中で使うAI」から「AIが担う業務を人が監督する」世界へ
まずAIエージェントの登場によって業務における人とAIとの関係はどう変わるのか。同社の鈴木正敏社長は「人が担う業務の中で使うAI」から「AIが担う業務を人が監督する」世界に変化すると語る。
これは具体的にはどういうことか。同社が2025年の重点的な取り組みとして挙げる2項目から見ていこう。
- AIプラットフォーマーとしての進化: AIの全社活用を支える製品群を昨年来展開。YOKOHAMAリリースでのAIエージェント搭載を含めて継続的に強化。AIの力を多くの企業や社会の変革へと昇華する、引き続きの支援
- 次世代CRM 顧客体験の革新: 顧客接点からサービス全体を包括した広範囲での新たな価値提供。顧客接点から社内業務までの「整流化」とAI自動化。顧客体験全体を360度視点でカバーしたAI提案と改善
上記でも述べられているように、YOKOHAMAにプリビルドされたAIエージェントによって、ITSMにおけるインシデント分類や変更プランニングや、CRMにおけるケースのトリアージなどが可能になる。ServiceNowが提供するさまざまな業務アプリケーションにおけるAIエージェントの主なユースケースは次の通りだ。
AIプラットフォーマーとしてのServiceNow
ServiceNowはAIエージェントについて、「複数のAIエージェントが連携し、重要なビジネス課題を自律的に解決することで組織全体の生産性を飛躍的に向上させる」としている。
鈴木社長は従来の人とITシステムとの関係について、「従来は人がシステムに使われている状況だった。一つの業務に取り掛かるたびに業務に使うアプリケーションを探すという無駄な時間がかかっていた」と振り返り、こうした課題を解決するための手段がAIエージェントだとする。
同社の原 智宏氏(常務執行役員 COO《最高執行責任者》)はAIエージェントを業務の中でどう利用するかを示すデモを紹介した。
例えば従業員が産休や育休制度などの社内制度を利用する際、手続きに必要な情報を探せなかった場合は、従来は人事部門に問い合わせることが一般的だった。こうした情報の探しにくさや回答にかかる時間が従業員の不満につながっていた振り返った。
AIエージェントを利用することで、従業員からの問い合わせ内容の緊急度をAIが判断し、優先順位の高いものから必要な情報を収集して従業員に届けることができるという。
「従来は従業員と人事部門担当者の間で度重なるやり取りが発生して生産性に影響を及ぼしていた。AIエージェントによる能動的で自律的な業務実行により、人事部門担当者がほぼ関与することなく従業員は十分な情報を取り出せるようになる」(原氏)
上記のデモにおける注目ポイントは、育休・産休制度利用の手続きに必要な情報を回答するという一連の業務に複数のAIエージェントが関与していることだ。
YOKOHAMAには複数のAIエージェントを組み合わせることで業務目的を実現する「AI Agent Orchestrator」機能が搭載されている。「AI Agent Orchestratorが全体を俯瞰(ふかん)しながら業務プロセス全体を管理、監督する」(原氏)
なおAI Agent Orchestratorは、Now PlatformにプリビルドされているServiceNowのAIエージェントだけでなく、将来的には他社のAIエージェントも管理、監督の対象になる予定だという。
ServiceNowは、ITSMをはじめとするさまざまな業務をNow Platformでデジタルワークフローとして扱い、業務の「ボトルネック」を取り除きながら効率化や自動化を図るサービスを提供してきた。今後、AIエージェントをはじめとするAIを活用することでどのような姿を目指すのか。
原氏は「複数の部門やシステムに分かれている“分断されがちな業務”を一括して実行する役割をAIエージェントが担っていく。これがServiceNowがプラットフォームベースで提供するAIエージェントの大きな特徴だ」と語った。
鈴木社長も「AI is only as powerfu; as the platform it's built on(AIの真価を引き出すのは、基盤となるプラットフォームだ)」という言葉を紹介し、同社のAIに関する取り組みの中心にNow Platformがあることを強調した。
ServiceNowが手掛けるCRMの特徴は?
ここまでServiceNowのAIエージェントの特徴を見てきたが、これをCRMに適用すると何が起こるのだろうか。
ServiceNowと言うとITサービス管理(ITSM)機能を提供する「ServiceNow ITSM」のイメージが強いが、近年は今回大きなトピックとして扱われている顧客関係管理(CRM)機能「ServiceNow CRM」をはじめとするさまざまな業務に向けたクラウドサービスを提供している。
鈴木社長はServiceNowが手掛けるCRMについて、「伝統的なCRMの領域を超えていく」と強調した。具体的には顧客データの管理にとどまらず、エンドツーエンドの体験をサポートするという。「そして、その各所でAIがサポートする」(鈴木社長)
ServiceNowは従来型CRMの課題として、実際の業務にITシステムが対応できておらず、担当者に負担がかかっていることを挙げた。
「顧客対応にはミドルオフィス部門、バックオフィス部門など多くの部門が関わっているにもかかわらず、システムが対応していないために直接的な顧客接点を持つ営業部門担当者の“頑張り”によって処理されているのが現状だ」(鈴木氏)
プロセスが「整流化」されていないため顧客対応に長い時間がかかり、返答のクオリティも上がらない。
ServiceNow CRMはこうした課題をどう解消するのか。「顧客接点のある営業部門だけでなくミドルオフィス、バックオフィスも連携し、エンドツーエンドでプロセスを管理する」(鈴木氏)
製品の不具合に関する問い合わせの際は、該当製品を所管する部門や検査担当者、部品を管理する部門と、さらに広い領域に関する問い合わせには、経理部門や法務部門とも連携するようになる。
「ミドルオフィス、バックオフィスも含めて一つのプラットフォームで連携することで回答のスピードが改善され、顧客サポートやサービス提供のクオリティを高める」(鈴木氏)
ServiceNow CRMは問い合わせへの対応状況を顧客に対して可視化できるため、これによる顧客満足度の向上も見込んでいるという。
「当社は他社と比べると必ずしもCRM領域での取り組みは長くないものの、約10年にわたってカスタマーサービスマネジメントやフィールドサービスマネジメントといったCRMの主領域でサービスを提供してきた。当社のCRMは『Forrester Wave Customer Service Solutions,Q1 2024』でリーダーの1社として評価されている」(鈴木氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
大手ベンダーこぞって始めたAIエージェント ServiceNowの取り組みは?
AIエージェントの進化が企業の業務効率化を後押ししており、ベンダー各社も関連サービスを拡張している。ただし、セキュリティ面での不安は依然として残っているため、慎重に導入を検討する必要がある。Microsoft、SAP、SalesforceらのAIエージェントの特徴は? 6社の動向まとめ
人間のような意思決定能力を備えたAIエージェントが登場し始めた。Microsoft、SAP、Salesforceら6社が発表したAIエージェントの特徴と各社のAIエージェントに関する考え方をまとめた。生成AIで働き方はこう変わる ServiceNowイベントから見えた「わりとすぐに実現しそうな」未来予想図
生成AIをはじめとするAIの活用によってわれわれの働き方はどう変わるのか。ServiceNowが描くAI活用の展望とは。同社主催の「World Folum 2024」から見えた、「わりと近い将来に実現しそうな」働き方を紹介する。ServiceNowの取り組みから探る AIを業務に活用するための「ワークフロー×AI」とは
AIをさまざまな業務に有効活用するためにどんな手段があるか。こうした疑問に対して、「ワークフロー×AI」を掲げるのがServiceNowだ。ワークフロー×AIの要点を押さえつつ、この掛け合わせの有効性を探る。