EUや米中の戦略は? 諸外国におけるバイオ燃料政策の動向バイオ燃料の社会普及に向けた将来展望(2)(1/2 ページ)

運輸分野における脱炭素化の切り札として期待されている「バイオ燃料」の動向について解説する本連載。第2回目となる今回は、主要各国・地域のエネルギー戦略におけるバイオ燃料の位置付けや、政策動向について解説する。

» 2024年06月11日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

 エネルギー戦略における各国のバイオ燃料の位置付け、海外でのビジネス動向、日本でのバイオ燃料社会普及に向けた展望などを全3回にわたり解説する本連載。前回は、脱炭素エネルギーとしてのバイオ燃料の分類や製造方法、社会に普及させる上での課題を解説した。

 第2回の今回は、各国・地域の政府が掲げている政策動向を紹介することで、エネルギー戦略における各国のバイオ燃料の位置付け、役割や期待値を整理したい。

各国・地域のエネルギー戦略におけるバイオ燃料の位置付け

 2020年ごろ、世界各国・地域がカーボンニュートラル達成に関する目標とそれを実現するための政策を発表したことは記憶に新しい。最終的にCO2排出量をゼロにする目標は同じであるが、国や地域によって経済や二酸化炭素排出の状況は当然異なるため、カーボンニュートラル達成に向けた取り組み内容やその方向性も異なったものとなっている。

 その中でも今回は、カーボンニュートラル達成を目指す上でバイオ燃料が主に関与する運輸部門(前回同様、ここで言う運輸部門とは自家用・営業用を含む自動車、航空機、船舶等を指している)に対する目標や政策の違いを見ていく。

(1)EU

 運輸部門の脱炭素化の実現に向けて電動化(EV)、水素、バイオ燃料などの代替ソリューションに対して、いずれも注力する方針を取っている。具体的には、再生可能エネルギー由来の水素とCO2から作られる合成燃料であるe-fuelを使用するエンジン車を除き、2035年以降の新車販売は全てEVとすることが決まっている。

 また、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年5月にはロシア産化石燃料からの脱却を目指し、水素の導入目標をさらに上方修正した「RePowerEU計画」も発表した。2023年には、「再生可能エネルギー指令(RED(Renewable Energy Directive)III)」が採択され、バイオ燃料については、2030年までに食物由来のバイオ燃料の導入上限を7%、または2020年水準+1%(いずれか低い方)に、廃食油由来のバイオ燃料の導入上限を1.7%とすることが定められた。

 さらに、電動化が比較的難しいセクターである航空燃料に関する規則「ReFuelEU Aviation」では、SAF(Sustainable Aviation Fuel)の導入比率を2025年に2%、2030年に6%、2035年に20%、2040年に34%、2045年に42%、2050年に70%とすることが義務付けられ、来年2025年からは結果が求められる。

 このように、EUではいわゆる全方位戦略を取っているが、バイオ燃料に関しては2025年から導入比率を一定以上求められるSAFとしての利用が最も注目されている。これまでもEUは、排出量取引制度、炭素税、炭素国境調整メカニズムなど、国際的なルールメイキングにつながる脱炭素政策を世界に先駆けて発表しており、ReFuelEU Aviationについても同様の政策につながる可能性が高い。

 実際、日系の航空会社を含めEU域内の空港を出発する全ての航空会社はSAFの導入に向けた体制整備をさまざまなステークホルダと協力しながら急ピッチで進めている。SAFなどのバイオ燃料をはじめとする脱炭素ソリューションは基本的に石油由来を原料とする燃料と比べてコストが高い。大量に購入してくれる需要家がいれば生産の規模を高めてコストを低くできると考える供給側と、コストが低い場合は大量購入ができると考える需要家側のように、“鶏と卵の関係”に陥るのが脱炭素ソリューションの常とも言える。

 この状況を打開し、脱炭素ソリューションをスピード感を持って普及させていく上では、EUのように導入を義務化する政策を打ち出す意義は大きい。今後、EUの政策を倣って自国の政策を発表する国が増えていくとも想定されることから、ルールメイキング力に長けるEUの政策動向ならびにその政策によるビジネス状況を注視する必要があるだろう。

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