SAPの取締役会から2人が退任 オンプレユーザーのクラウドリフトへの難航が理由か

SAPの取締役会から2人が離脱した。あるアナリストは、SAPはSAP ECCやSAP S/4HANAのオンプレミスシステムをSAP S/4HANA Cloudへ移行させるのに苦労していることが原因だという。

» 2024年09月27日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 SAPの再編により、マーケティングおよびソリューションの最高責任者であるジュリア・ホワイト氏と営業責任者であるスコット・ラッセル氏が退任することになった。

 あるアナリストは、SAPは旧来の顧客基盤である「SAP ECC」や「SAP S/4HANA」のオンプレミスシステムを「SAP S/4HANA Cloud」へ移行させるのに苦労していることが原因だという。

 SAPの決算説明会では優れた業績が示されているものの、潜在的な課題を抱えているのかもしれない。

オンプレミスユーザーのクラウドリフトに難航か

 2024年7月30日(現地時間、以下同)、SAPの監査役会は「ホワイト氏とラッセル氏が同年8月31日をもってSAPの役員を退任することに合意した」と発表した。2023年の契約により、両者が2027年まで任期を延長していたことからすると、かなり前倒しの決定だ。SAPはプレスリリースでこのニュースを「戦略的な移行」と表現し、「取締役会の構造を簡素化してスイートおよびAI優先の戦略に集中するためのものだ」と述べた。

 ラッセル氏の後任探しは現在進行中で、当面の間はクリスチャン・クライン氏(CEO)が営業組織を指揮するという。一方、ホワイト氏の後任をすぐに任命する予定はないとのことだ。

 ホワイト氏は、Microsoftにおいて約20年間マーケティング担当役員を務めた後、2021年3月にSAPに入社し、その後、SAPの役員に昇格した。SAPがマーケティング担当者を取締役会に迎えたのは初めてのことだった。

 ホワイト氏は、SAPの顧客向けイベントとして毎年開催されるカンファレンス「SAP Sapphire」のセッションや基調講演において司会や講演を行う重要な存在であった。

 ラッセル氏はIBMで役員を務めた後、2010年にSAPに入社した。SAP Asia Pacific Japanの社長を経て、2021年に最高収益責任者(CRO)に就任し、取締役会に加わった。

 SAPはプレスリリースの中で「これらの主要分野に優先的に取り組むことで、企業向けソフトウェアのリーディングカンパニーとしての地位をさらに拡大していく」と述べている。

 SAPは、ホワイト氏とラッセル氏が同社を去った具体的な理由や、両者が「変革」の一翼を担わない理由については明らかにしていない。ホワイト氏の退任により、ジーナ・ヴァーギュ・ブロイアー氏(チーフピープルオフィサー兼労務ディレクター)がSAPの取締役会における唯一の女性メンバーとなる。

 今回の退任は、2024年における取締役会の大幅な再編における最新の出来事である。2024年4月にSAPは、トーマス・ザウアーシッグ氏が担当する顧客成功とクラウド導入に特化した新しい領域を取締役会の中に設立した。また、ムハンマド・アラム氏を取締役会に加え、ザウアーシッグ氏の後任としてプロダクトエンジニアリング部門の責任者に据えた。アラム氏は、SAPのインテリジェント支出事業部の社長兼チーフプロダクトオフィサーを務めていた。

重要な時期における指導者の交代

 ホワイト氏とラッセル氏の退任は、SAPにとって重要な時期に実施された。あるアナリストによると、SAPはSAP ECCやSAP S/4HANAのオンプレミスシステムからSAP S/4HANA Cloudへ移行させるのに苦労しているという。

 コンサルティング企業であるEnterprise Applications Consultingのジョシュア・グリーンバウム氏(プリンシパルアナリスト)によると、2024年7月22日に実施された第2四半期の決算報告で明らかになったように、財務的には好調であるにもかかわらず、顧客基盤の移行の停滞はSAPにとって存続の危機となりつつあるという。

 「この移行の問題は非常に重要であり、ホワイト氏とラッセル氏はそれに対処していなかったのかもしれない」(グリーンバウム氏)

 グリーンバウム氏によると、ホワイト氏のマーケティング手法はSAPのニーズと合致していなかった可能性があるようだ。このことは、以前の取締役会の再編において、ソリューション・マーケティングの一部が削減され、ザウアーシッグ氏が新たに創設した領域が優先されたときに初めて明らかになった。

 「ホワイト氏のマーケティング手法はデジタルを中心としたもので、対面での取り組みが十分でなく、『Microsoft Office』のようなバンドルソフトを売る手法で、複雑な企業向けソフトウェアを販売しようとしていた。この手法では、長年にわたってSAPの中核を担ってきた大企業顧客のニーズを満たせるとは思わない」(グリーンバウム氏)

 グリーンバウム氏は、次のようにも述べている。

 「このアプローチの一例として、SAP TechEdのような開発者向けイベントや、『SAP SuccessFactors』におけるSuccessConnectのような顧客向けの対面イベントが縮小され、よりデジタル重視のマーケティング手法に置き換えられていったことが挙げられる」

 「定期的に集まって交流する必要がある人々で構成されるコミュニティーがあるという理解が欠けていた。指標を重視するあまり、直接顔を合わせるイベントへの関心が損なわれていた」(グリーンバウム氏)

 調査企業であるForrester Researchのリズ・ハーバート氏(アナリスト)は「この度のSAPにおける退任には多少の驚きを持っているが、過去のSAPの幹部人事を考えるとそれほど珍しいことではない」と述べた。

 ハーバート氏によると、営業やマーケティングのバックグラウンドを持つドイツ国外の幹部よりも、ドイツ国内に拠点を有し、技術やエンジニアリングのバックグラウンドを持つ幹部の方がSAPの経営陣として長続きする例があるという。

 「例えば、ジェニファー・モーガン氏は営業のバックグラウンドを持っており2019年後半にクライン氏とともにCEOに就任したが、その任期は比較的短かった」(ハーバート氏)

 ハーバート氏は、次のようにも述べている。

 「最終的には、SAPの移行問題がホワイト氏とラッセル氏の退任の決め手となった可能性がある。最新の決算説明会では優れた業績が示されているものの、S/4HANA Cloudへの移行にはまだ多くの課題がある」

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