産業用AIは一般的なビジネス向けAIとどのように異なるのか。特化型ERPを提供しているIFSの年次イベントを基に、産業用AIがもたらす具体的な価値について紹介する。
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AIがビジネスのあらゆる側面に浸透する中、「Industrial AI」(産業用AI)は一般的なビジネス向けAIとどのように差別化を図っているのだろうか。
航空宇宙、サービス、通信、建設、エネルギー、製造の6分野に特化したERPを提供しているIFSは2025年6月4日、年次イベント「IFS Connect Japan」を開催した。基調講演で語られた同社の取り組みを基に、産業用AIがもたらす具体的な価値について紹介する。
IFSのヴァイブス・クマール氏(テクノロジー部門シニアバイスプレジデント《SVP》)は講演の冒頭で、AIを歴史的な変革をもたらした蒸気機関になぞらえ、それが産業全体に普及する「基盤技術」と位置付けた。同氏は、蒸気機関が発明から実用化、そして産業革命の核となるまでに時間を要したことに触れ、「AIは活用されることで初めて真価が発揮する」と述べた。
クマール氏は、産業用AIの開発と提供においてIFSが負う「責任」を次のように強調した。
「私たちが提供するソフトウェアが、特定の企業のビジネス運営の基盤となることを理解している。そのため、AI技術を通じて提供される洞察が常に正確であることを保証する責任がある」
資本集約型の産業では、不正確な洞察が数十億ドルの収益損失や、人々の安全に影響を及ぼす可能性があるため、その正確性は特に重要だ。
IFSは、この責任に基づいて「IFS.ai」を開発した。同氏は、「顧客データは顧客のものであり、常に保護され、いかなるAIモデルのトレーニングにも使用されたり、いかなる生成AIに渡されたりしないことを保証する」と説明した。
このプラットフォームは、資産管理やフィールドサービス管理といった各産業固有のビジネスプロセスに柔軟に対応できるよう設計されており、顧客固有の要件に合わせてシステムを構築できるコンポーザビリティ(構成可能性)が特徴だという。これにより、企業の競争優位性となる独自のプロセスをシステムで再現、最適化できる。
また、クマール氏はIFSが推進するエージェンティックAIの将来性について、「これは、かつてRPAが目指しながらも、複雑なエッジケースへの対応が課題だった点を、AIの学習と適応能力によって克服するものだ」と説明した。エージェンティックAIは、企業全体の知識ゲートウェイとなり、最終的にはビジネスプロセスの自律化を推進する可能性があるという。
続いて登壇したIFSのジェームス・グリーブス氏(グローバル・プリセールス責任者)は、具体的なデモンストレーションを通じて、IFSの産業用AIがコンシューマー向けAIと異なる点を示した。
まずグリーブス氏は、「『ChatGPT』を日々使うが、常に100%正しいとは限らず、求めているものとは違う回答が出てくることもある。だからこそ産業用AIが非常に重要だと考えている」と述べ、「コンテキスト(文脈)への理解が産業用AIが他のAIと差別化する主要な要素」と強調した。
例えば、風力タービンの「予防保守作業」を意味する「PMS」(Preventive Maintenance Actions)という略語について汎用AIに尋ねた場合、文脈がないため「首相」(Prime Minister)や「プロジェクトマネジャー」(Project Manager)といった無関係な事柄に関する回答が返ってくるという。しかし、IFSのAIは、メンテナンスモジュールを基に問いの文脈を認識しているため、即座に予防保守に関する正確な情報を提供できるという。
グリーブス氏は、「IFSのAIは、業界の用語、全てのデータと知識を理解し、汎用AIが把握していないコンテキストと深い知識を持っている」と語り、その実用性を強調した。このコンテキスト理解の能力は、AIが提示する洞察の関連性と精度を高め、企業が直面する具体的な課題解決に役立つ。
また、AIが単に情報を提供するだけでなく、アクションの実行を支援する点も紹介された。
グリーブス氏は、AIが報告書を分析して自動的に作業指示書を生成したり、サプライヤーの評価基準に基づき最適なサプライヤーを提案したりするデモを実演した。特に、エージェンティックAIによるサプライヤーとのコミュニケーション自動化の例では、納期遅延メールをAIエージェントが受信し、影響を受ける注文や顧客を特定し、代替サプライヤーを検討していた。最終的に人間による承認を経て、自動的に発注書の切り替えや通知をする一連のプロセスから、従来手動で実施していた複雑な調整プロセスが効率化され、オペレーションの正確性を向上させられるのが分かった。
グリーブス氏は、「企業がAIモデルを独自にトレーニングし、それら全てを複雑に統合する手間をかけずに、「IFS Cloud」を導入し、それを使用することから価値を得ることに専念できる」と説明した。
基調講演では、AIによる変革期において、企業がその変化に対応するためにはデータ品質の向上と最新のAI技術の活用が不可欠であると頻繁に語られた。質の高いデータは、AIがその真価を発揮し、精度の高い洞察とアクションを生成するための基盤となる。IFSは、産業用AIを通じて、ビジネスの生産性、意思決定、そして顧客体験を向上させるための実用的なツールと戦略を提供し続けるとした。
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